彼は通りすがりの生徒に話しかけられ、会釈していた。

 わたしと樹を周囲から見た関係は、おそらく一学期と同じように、ブラコンに構う樹なんだろう。

 今になると力いっぱい否定できなくなるのがつらいけれど。

「じゃあな」

 樹は二階に到着すると、軽く手を振り、教室のほうに歩いていく。

 わたしはそのまま階段をあがり、三階に到着した。

 だが、廊下に出たわたしは自分の教室の前に立っている人を見て、心臓をわしづかみされたような気持ちになる。彼女はわたしを見て、笑顔を浮かべると、わたしの傍に駆け寄ってきた。

 そんなわたしの迷いを読んだかのように、彼女はにこりと微笑んだ。

「先輩、おはようございます」

「おはよう」

 わたしはどんな表情をしていいか分からず、欠伸をかみ殺す振りをして、彼女に返事をした。

「今日、寝坊したんですか?」

「ちょっとね」

「先輩らしくていいですよ」