そう愚痴をこぼしながらも、わたしの口元が自ずと緩むのが分かった。

 わたしはそのまま一、二分程にやにやし続け、隣の日和の部屋の扉が閉まる音で我に返る。

 そもそもそんなことをしている場合ではなかった。

 慌ててベッドから身を起こし、制服を着るが、すでに一階に到着した時には家を出ないと間に合わない時間になっていたのだ。

 寝癖をなおすのも許されず、朝食のパンとお弁当を母親に持たされ、寝ぐせを治すのと、学校まで走るのをはかりにかけた結果、そのまま家を出るはめになった。

 家の外に出ると自分の影を視界に収めてため息をついた。

「寝ぐせ直したかったのに」

「大丈夫だって。寝癖がついていても可愛いから」

 その言葉にわたしの顔が真っ赤になっていたような気がする。それ程、わたしの頬が急激に熱を持ったのだ。

「可愛いって変なこと言わないでよ」

「本心でそう思っているよ」

 あの利香の会話の影響からか、彼はわたしを可愛いとよく口にし始めたのだ。

 きっとわたしと樹の兄弟としての関係を知らなければ、恋人同士とも見まがうような会話だと思う。