「お姉ちゃん? 遅刻するよ」

 彼女は部屋の中にいる樹を見て、小さく声を漏らした。

 わたしは樹を追おうとした視線で妹を見てしまい、気まずさから、布団を口元にまで引っ張り上げた。

「樹が起こしたのか。なら、大丈夫かな。あと十分で出ないと遅刻だよ」

 わたしは声にならない声をあげ、枕元の携帯を覗く。

 日和の言った通り、あと十分以内にでないと全速力で走るはめになる。

 彼女は早く準備をしないとと言い残し、ドアを閉めた。

 彼女はわたしと樹がキスをしたりする関係になっているとは考えてもみないのだろう。

 それは当たり前だと思う。わたしと樹は兄妹なのだから。

「じゃあね」

 樹は少し膝を曲げると、わたしの額に唇を重ねた。

「樹」

 突然の不意打ちに、声にならない声をあげるが、樹はまるで挨拶の言葉を交わしただけとでも言いたそうに普通の表情を浮かべている。

 彼はわたしを見て、くすりと笑うと、部屋を出ていった。

「不意打ち過ぎる」