さっきから、何度同じことを繰り返しているのか、

左手に握りしめたケータイを、開けたり閉めたり。

いい加減、生あたたかくなっているそれを、じっと見つめてみても、

適当な言葉が全然思い浮かばなかった。

青白く光る画面とにらめっこしていると、

待ちくたびれたように消えるライト。


「もしかしてメールもしてないの?」

「誰に?」

「早川に決まってんでしょ!
『ありがとう』とか、『ごめんね』とか、何かないの?」

「だって、したことないし…」

「だったら、ちょうどいいじゃない!きっかけ、きっかけ!」


別れ際にみかが急にあんなこと言い出すから。


「した方がいいのかなぁ…」


一緒にいてくれて、元気になれたのはホントだし。

「しなよ!むこうも気にしてるかもよ?
『おかげさまで元気になりました』って、
知らせてあげれば?」

「うーん」


なんてことはない、メールなら顔見なくて済むんだし、

何をそんなにためらう必要があるのか。

自分でもよくわからなかった。

あんなとこ見られて、照れくさいっていうのもあるし、

できればなかったことにしてほしいくらいなのに、

わざわざ自分から蒸し返すのもなぁ…とか。


「それって、最低限、『人として』、だと思うけど?」


確かに、みかの言ってることは正しい。

私だってそう思う、思うけど、

それを行動に移すとなると話は別で。


「人として、人として、」


呪文のようにブツブツ言いながら、

ようやくアドレスを開いたところに、

手の中でぶるぶる震え出すケータイ。

表示されたのは、修ちゃんの名前だった。