「違っ、あのね、…さっきほら、

修ちゃんちょっと、…変だったから。

いつもと違うっていうか、その、…だから、

何かあったのかなって。」

「何かって?」


これ以上言っていいものかどうか、

迷う暇も与えてもらえず、

私は一気に壁際に追い詰められた。


「あの、…あのね、お姉ちゃんが見たんだって。

修ちゃんが女の人と一緒にいて、

…その人、泣いてたって。

それって、…レイナさん、…でしょ?」


自分の目で見たわけでもないのに、

本人に向かってこんなこと聞いちゃう私は、

どうかしてる。

私が聞くことじゃないって、

わかってるから目線が泳いでしまう。


修ちゃんの迫力に負けて、

思わず白状しちゃったものの、

怖くてまともに顔が見れなくて。

怒ってる?怒ってるよね?

上目使いにチラッと様子をうかがうと、

意外なことに修ちゃんは怒っていなかった。

片手を額に当てて何かを考え込んでいる様子で。
 

「あのぉ、…修、ちゃん?」
 

ゆーっくり顔を上げると、いきなりのデコピン攻撃。


「いったーい!!」


あまりの痛さに両手で押えると、


「あのさぁ、…フツーに考えて、

俺がお前に恋愛の相談なんて、ありえないだろ?

したってなんの参考にもなんないし――。

それとも何?なぐさめてくれたりするわけ?」


修ちゃんはからかうように、

どんどん顔を近づけてくる。

さっきのイタズラの余韻で、

そんなちょっとした動きにも過剰に反応するカラダ。


「やだ、ちょっと、向こう行って!」


ぐいっと両手で顔を押しのけて、

どうにか壁際から脱出した。


「いって!加減しろよなー、ったく。」


と修ちゃんは首をひねる。


「…そんなに聞きたい?」

「うん」

「やだね、言いたくない」

「はあ?」 

「そう簡単に教えてたまるかよ」  

「あっそ。じゃあもう絶対、
聞いてあげないからね!」

「全然、結構です」


あかんべぇまでされて、

なんかすっごく腹立つんですけど。

まるで子供の喧嘩みたいで、

言い返すのもばからしい。

だけど、そんなのは、

修ちゃんの精一杯の強がりなわけで。


「…話したって、どうにもなんねぇよ」
 

私じゃ何の力にもなれないって、

そんなのわかってるけど!

最後に独り言のように吐き出されたその言葉が、

小さな棘みたいに胸をチクリと刺した。