あったかいなあ。

クーラーでよく冷えた部屋の中では、

ヒトの温もりはほどよく気持ちよかった。

しばらくこうしててあげてもいいかなって思えるくらい。

頭の中にはどちらのものともつかない鼓動だけが響いて、

ふわふわして。

いつのまにか力の抜けた私は、

随分長い間そうしていたらしく。


「おーい、か~り~ん」


名前を呼ばれて始めて、

体が自由になってると気がついた。


「あれ?」

「寝てんのかと思った」


実はちょっと気持ちよくて、

ぼーっとしてたなんて言えるわけないし、

そんな自分が恥ずかしくて、慌てて離れる。


「修ちゃんが解放してくれないからでしょ」


って、いいわけ気味に抗議したら、 


「ごめん。」


て、え?聞き間違い?

そんなにあっさり謝られると、気持ち悪いんですけど。

目をそらして伏せた横顔が、バツ悪そう。

やっぱり、何かあったんだ…。

きっと、レイナさんのこと、…だよね。

探るように見つめる私の視線に気づいた修ちゃん。


「やっぱお子ちゃまは抱き心地イマイチだなぁ~。

顔がついてなきゃどっちが前だかわかんねぇぞ」

「ちょ、それどういう意味?」

「さ、勉強、勉強」


わざとらしく言ってはぐらかすと、

床に胡座をかいて、教科書をパラパラめくり始めた。

仕方ないから私も、一応ノートを広げるけど、

どう考えても今のは納得いかない。



だってこっちは心臓飛び出るくらい緊張したんだよ!

それなのに、あんな言い方!

だいたい離してくれなかったの修ちゃんの方じゃない!

このまま言われっぱなしじゃ悔しいから、

抗議の意味をこめて、

部屋の真ん中に置かれた丸テーブルに、

分厚い参考書をドスンと大きな音を立てて置いた。