一人であれこれ考えすぎて、

時間になってもなかなか修ちゃんの家へ

行く気になれなかった。

どんな顔して会ったらいいのかわからなくて。

さりげなくとか、自然にとか、

思えば思うほどできなくなるタイプだし。

だけど今日行っとかないと、

この先余計に顔合わせづらいことくらい、

私でもわかるから。

勇気を振り絞って玄関のインターホンを押す。


「こんばんは~」


それだけなのに、

ビミョーに声が上ずってしまう。


「おぅ、開いてるから」


いつもと変わらない声が聞こえて、

少しほっとした。


「おじゃましまぁす」


修ちゃんしかいないけど、一応玄関で挨拶してから、

いつも通りに脱いだ靴を揃えてキッチンへ向かう。

お母さんに言われていたお裾わけのぶどうをしまおうと、

冷蔵庫を開けると


「修一のやつ、彼女と揉めてたみたい…」


さっきのお姉ちゃんの言葉が、ふいに頭をよぎる。


『それって海に行くより前だよね…?』


冷気を浴びながらぼーっとしていると、

開けっぱなしになった冷蔵庫が、

ピーッ、ピーッと鳴りだした。

うわ、開けっ放しだった!


「聞かなかったことにしよ」


慌てて冷蔵庫のドアを閉めながら、

自分に言い聞かせる。

二階へ続く階段を上がりながら、


『いつもどーり、自然に、自然に…』


呪文のように心の中で唱える。

ドアの前に立つと、いっそう高まる緊張。


心を落ち着かせようと、

ドアノブをグッと握って、

深く息を吸い込んだら、

ガチャッ。


「え?」


勝手に開いたドアに引っ張られ、

グラリと前に倒れていく体。


ゴツン。


「いったぁ…」

「大丈夫か?」


聞かれて見上げたら目の前に、

修ちゃんの顔があった。