「ま、そう落ち込むことないって。
修一だけが男じゃないんだし。
大体かりんはアイツを美化しすぎなんだよねー。
そりゃ、私もちょっと意外だったけどさ。
優しいだけが取り柄だと思ってたのに、
公衆の面前で女の子泣かしちゃマズイよね。」


お姉ちゃんって言ったって、
ちょっと早く産まれてきたってだけなのに、
なんでそこまでエラソーになれるの?


私のことだけならまだしも、修ちゃんのことまで、
馬鹿にしたみたいな言い方して。
修ちゃんだって、
何も泣かせようと思って泣かせたわけじゃないはずなのに、
それをおもしろおかしく話す無神経さが許せなくて、


「何にも知らないくせに、テキトーなこと言わないで!」


怒りにまかせてバスルームの扉を思いっきり閉めた。


「何よ!バカ!せっかく教えてやったのに!」


ガラス越しに叫んでるお姉ちゃんの声をかき消すように、

シャワーの蛇口をひねる。


「冷たっ!!
もう、何よ!…お姉ちゃんのバカっ!」


なんでこんなにイライラするんだろう?
自分でも何に腹が立っているのか、よくわからない。
お姉ちゃんが修ちゃんの悪口言ったから?
彼女って言葉に、レイナさんの顔が浮かんだから?


それもあるけど…、

私、今一瞬、喜んでた。

修ちゃんが彼女と、
レイナさんとダメになったかもしれないって聞いて、
ちょっと嬉しいと思ってしまったんだ。
信じられなかった。

二人がうまくいけばいいなって、
さっきまでホントにそう思ってたはずなのに。
自分がこんなにヤな子だったなんて、
信じられないし信じたくない。
自分でもよくわからない自分の気持ちに振り回されて、
頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。


これっていわゆるヤキモチ?

ってゆーか、好きな芸能人に熱愛が発覚したときの、
ファンの気持ちみたいな、あれだよね?


「ホントは修ちゃんのことが好きなんじゃないの?」


いつか言われた言葉が頭に浮かんで、


「そういう『好き』じゃないもん…」


自分にいいわけするみたいに呟いた言葉は、
出しっぱなしのシャワーの音にかき消されて、
泡と一緒に流れていった。