「ふぅん。オレのこと見られたらマズイってワケ。

 それって、何かムカつくんだけど」


振り返るといつの間にか、

パラソルの中に修兄がいた。

至近距離で囁かれた低い声に、

心臓が跳ね上がる。

え、なに?

いつもの修兄じゃないみたい。

コワイ、けど後には引けなくて。


「修ちゃんには関係ないでしょ!」


ちょっと強気に言ってみた。


「へえ、そんなこと言っちゃうんだ?」


うわ、怒らせちやった?

調子に乗りすぎたかな?


「関係ないんだったら、そう言えばいいじゃん。

紹介してくれよ、かりんのカ・レ・シ。」


言えないのわかってるくせに!

なんて意地悪なんだろう。

しかも、困ってる私を見て、

ほくそ笑みながら、肩に腕を回してくる。

やめてよー!

腕だけじゃない、背中とか、素肌同士が触れてるし!

いつもとは違う密着感に、私の心臓は限界だった。


「ダメだよ!ダメダメ!

っていうかカレシじゃないもん。

あのね、これには色々ワケがあってね、

ほら、明日、ちゃんと報告するから。

ね?もうお願いだからあっち行ってて!」


両手で押し返しても、びくともしない。

全然離れてくれなくて。

言い負かされたみたいで悔しいけど、

今はそんなこと言ってられない。

一秒でも早く、どっかに行ってもらわなきゃ!

結局、修ちゃんにはかなわないんだよね-。

どんなに背伸びして、

生意気な口きいても、余裕でかわされてしまう。


「そんなに必死にならなくたって、もう退散するよ」


私のおでこを指で弾くと、すっと立ち上がって、

振り返りもしないで戻っていった。

一体、何だったの?

やけにあっさりして、逆にこわい。

胸に手を当てると、

うるさいくらいのドキドキが伝わる。

頭までくらくらしてきて、

気がついたら泣きそうだった。

理由はよくわからない。

修ちゃんがレイナさんのトコロへ行ってしまったから?

早川とのこと、誤解されたから?

それとも、さっきの修ちゃんが、

知らない男の人みたいだったから?

悔しいけど、修ちゃんのせいなのは間違いない…。