ああ、なんでこんなことに!

…結局断り切れなかった。

あれから、二人乗りで駅に向かうことを了承させられた私。

今は、なぜか、

プールとは反対向きの電車に乗ることを了承させられて。


「どうせなら、海行こうぜ!」


とか、そんな、今思いつきました!みたいな一言で!


「オレ夏休み、一日しかないんだぞ!

 だから、この貴重な日を、好きに使わせてくれてもいいじゃん!

 なっ!」


とか言われて、断れなかった自分が悔しい。

ひょっとして見透かされてる?

絶対付いてくると思われてる?

簡単なコだと思われたくない、

余計なプライドが邪魔して、うまく笑えなくて。


「そろそろ見えてもいいのにな」


揺れる窓の外ばかり見てる早川が腹立たしい。

窓に映ってる自分の顔はもっと。

どうしてもはしゃげない。

せっかく来たのに、楽しめない。

こういうときホントに恨めしい、自分の性格。


電車の中は、平日の昼間だからか、

人はまばらで。

私たちはガランとした車内の、

暑苦しい生地の椅子に、

少し離れて座っていた。


(こんなのもデートって呼べるのかな?)


(みか達に感謝しなくちゃね)


なんてウキウキして、


(私にも何かが起こるかも)


とさえ思ったのに。

扉が開いて、誰かが乗り込んでくる度に、


(私たちってどう見えるのかな?)


って、なかなか着かないから、

なんだかどんどん考え込んじゃって…

そういえばメアドもケータイ番号も交換したきりだし…

こんなの、どう見えるかとか以前の問題じゃない?

ひょっとして友達以下かも?

あぁ、もうダメ!恋愛モード全開だ!

早くスイッチ切らなくちゃ。

考えちゃダメ。

とにかく、話してれば大丈夫、なはず。


「あ、そういえばもう夏休みの宿題終わったー?」


「まだ」


「みかとヒロ君、もう泳いでんのかなぁ」


「だろうな」


「今年の夏って、
 去年より暑いような気がするんだけど―――」

「よく喋るなぁ、お前」


え。


なんかその言い方ムカつく。


「そんなに頑張ってしゃべんなくていいから。

黙って座ってろよ」


何それ!

そんなのもっと早く言ってよね!

アタシがどれだけ苦労して、

会話途切れないように頑張ったと思ってんの!

悔しくてちょっと泣きそう。

その時は、早川の言ってることの意味に、

気が付く余裕などなくて…


「わかった。もううるさくしないから。」


聞こえたかな?


なるべく低い声で、

呼吸を落ち着かせて言った。

じゃないと震えが伝わってしまいそうで、

泣き声に変わってしまいそうで。