そう思っていると、自転車のブレーキ音とともに、

大きな声が私たちを呼んだ。


「おーい!まだ、行かねーの?」


早川が私の自転車に乗っている。

置き去りになってたの、取りに行ってくれたんだ。

「そんなに心配なら、自転車置いて行けばいいじゃん。

後ろ乗せてやるから!」


ああもう、何でそういうこと言うかな?


みかがそういうの大好物だって、

わかんないわけないくせに。

今の、絶対わざとだし。

なんてたちが悪いんだろう。

これ、一見、爽やかな笑顔に見えるけど、

私が困るのを見て楽しんでる顔だから。


「いいよ!自分で行けるから!」

私は元気なことをアピールしようと、

慌てて飛び起きるけど、時すでに遅し。

あんなに不機嫌だったみかが、

満面の笑みを浮かべてるんだもん。

ああ、もうイヤな予感しかしない。


「それいい!それなら私も安心だわ。
頼むね、早川!」


そう言って、みかは私に向かって意味不明に小さくガッツポーズすると、

すばやくバッグに手を突っ込んで紙切れを引っ張り出した。

「これ、渡しとくから!

私ら先行くけど、無理しちゃダメだよ。

ゆっくり来てくれればいいからね!」


私に押し付けられたそれは、プールの無料入場券だった。


「え、これ?」


あっけにとられている私を、なぜかヒロ君が拝んでいる。

その唇が小さくゴメンと動いた気がした。