「泣くなよ。怒ってなんかないし。
ちょっとムカついただけ。
その~、ほら、こっちはめっちゃ心配したのに、
お前がへらへらしてるから…」


修ちゃんはバツが悪そうに言うけど、

さっきのは、明らかに怒ってたでしょ。

ていうか、やっぱり…。


「ねぇ、それって…」


つまりはヤキモチですか?


確証は何もないけど。

この前、海から帰った後も、同じようなこと言ってた。


「修ちゃん?」


私が何度も呼びかけると、

修ちゃんは、はっとした顔をした。



「ねえってば!ねえ!」


しつこく食い下がってもそれには答えてくれず、


さっきの参考書を押し付けてくる。


あーそう、帰れってことね。


私はそう受け取って、修ちゃんに背中を向けると、

独り言のように呟く声が聞こえた。


「アイツにくぎ射しといて、
オレが泣かしてどーすんだよな」


「え?」


「あー、アイツって早川な」


「早川?なんで?」


「アイツ、かりんのこと好きなんだろ?
なんでか、オレに、
告ってもいいかって聞くから、
泣かすなよって言ったんだ」


はあ?また私の知らないとこで、二人で話してたの?

しかも、好きって何?告白って何?


「あ、内緒なんだった、これ」


修ちゃんは口を押えて、しまったって顔してる。

だけど、全然悪いと思ってなさそう。

かわいそうに。同情するよ、早川…。


「オレに、聞いてどうすんだよなあ?
ダメなんて言う権利ないのに。
それどころか、ヤキモチ焼く資格もない」


修ちゃんは、ちょっと寂しそうに笑った。

私は、何も答えることができなかった。

頷くにも、首を振るにも、時間が必要だった。



「オレ、明日早いから、寝るわ」

「あ、うん。じゃあ、…帰る。
気を付けて行ってきてね」


私は半ば放心状態でそう告げて、

修ちゃん家を後にした。


「怖がらせてゴメン。

お土産買って来るから、許して」


朝起きたら、夜中のうちに修ちゃんから、

お詫びのメールが届いていた。