「あっ!ケータイ忘れた」

自転車にまたがった瞬間に思い出すとか

ありえない。

これで1分はロス?

今度こそ大丈夫だよね、忘れ物ないよね。



いつもはウンザリするほどうるさいセミの声も、

今日は夏らしく思えて許せた。

ようやく、

私の遅い夏が始まろうとしているみたいで。

せっかくノッてきたところで、

目の前の青信号が点滅して赤に変わる。

今、結構必死でこいでたのに、

間に合わないなんて!

我ながら体力なさすぎだわ・・・。

ブレーキをかけながら、

『約束には間に合うからいいよね』なんて、

自分で自分に言い訳しまくりで

一休みしていると、


「おーい」


って後ろから誰かを呼ぶ声がする。

私じゃないな。


「おいってば。」


って、もう一度。

早く誰か気づいてあげなよ。

汗だくの顔をあげたその時、キキキィー!

銀色の自転車がブレーキ音と共に、

私の横で止まった。