「出かけるとこだった?」

「ううん、大丈夫」

「え、だってその恰好…?」


不思議そうな顔して聞かれても、

うまい言い訳が浮かんでこなくて。


「あー、あのー、これはね、
試着っていうかね、ちょっと着てみただけっていうか」


自分で言ってるそばから、恥ずかしいやら、情けないやら。


「ふーん、せっかくそんな窮屈な恰好してんのに?」

「まあね…」


何?その表情、

急に何かを企むみたいに、ニヤニヤし始めちゃって。

いつかも見た気がするけど、ヤな予感しかしない。


「もったいないよな?」

「は?」

「めんどくさいけど、行くか?」」

「行くって、どこへ?」

「決まってるだろ!ほら、乗った!乗った」

「でも!ねぇ、本気で言ってんのー!?」


有無を言わせない勢いに負けて、半信半疑で荷台に腰かけた。


「しっかり掴まってろよ!」


言うと同時に、ペダルを大きく踏み込み、

どんどん加速していく。


「ホントにー?今からー?」

「当たり前だろ?


もう始まってるから、飛ばすぞー!」

後ろからで顔は見えないけど、きっと嬉しそうな顔してるんだろうな。

だって、実を言うと私も、ちょっとワクワクしてきたから。


「スピード出しすぎじゃないのー?」

「ダイジョブだって。サッカー部ナメんなよ!」


いや、そういう意味じゃなくて。

打ち上げる音がする度に足を止め、空を見上げる人波を、

縫うように走り抜けていく。


「危ないよー!」

「ちゃんと掴まってろ!」

だからそういう意味じゃないのに…。

どんどん大きくなってくる花火の音が、体に響いて、

いつのまにか、火の粉が上から降ってくるように見えるほど、

近くに来ていたことに気づく。