我が家は女の子二人だけの姉妹だから、

子供のころから、髪結って、

浴衣着せてもらって、お祭り行くのが当たり前で。

小さい時は、暑いからって駄々こねたり、

鼻緒ずれして、よく泣いたりしたものだった。


「なあに?やめとく?」


固まってる私に気づいたお母さんが、

くすくす笑いしながら、たずねる。


「やめないよ!絶対、着るから!」


ムキになって言い返す私を見て、また笑ってる。


「じゃ、シャワー浴びてきなさい。
用意しとくから」

「はーい」


水着だってまだ1回しか着てないし、

浴衣なんて、初だよ、初―!

私の夏も、やっとらしくなってきたなぁ。

なんて、我ながら単純だと思うけど、

それだけでホント嬉しくって、

ウソみたいに、テンション上がりまくり。



お母さんに帯を締めてもらっていると、

テーブルの上に放り出してあったケータイが鳴った。

お母さんが、動けない私の代わりに、

持ってきてくれたのはいいけど、

ディスプレイに表示された名前を見て、出るのをためらう。


『早川 孝』


…何の用だろ?


昨日カッコ悪いとこ見られただけに、なんか話し辛くて。


「クラスの男子だ。また宿題貸してとか言う電話だよ、これ。」


なんて、早口でいいわけをしながら、通話ボタンを押す。


「もしもし?」

「もしもし」


話し始めた私の背中で、お母さんがモゾモゾと帯を直してくれている。

急に引っ張られてよろめくと、お母さんの目が、

『じっとしなさい』って怒っていた。


「もしもーし、聞こえてる?」

「え?うん。聞こえてるよ?」


聞こえてはいるんだけど、イマイチ会話に集中できない。