「あ、いえっ……、こんばんは」


何とか挨拶を返したけれど、波立つ鼓動は収まりそうにもなかった。


「篤哉ったらね、今日のデート、突然キャンセルするんだもの」


えっ……。
思わずあっくんの顔を見る。

それじゃ、私にカレーを作るために、紗枝さんとの約束を断ったの?
目で聞いてみるけれど、あっくんは視線を逸らしたままだった。


「問い詰めたら、夕食を作らなきゃいけな」

「紗枝! 余計なことはいいから」


少しだけ語気を荒げると、紗枝さんはシュンと肩を縮めた。


「だって、私よりも二葉ちゃんを取るなんて、ちょっとショックだったんだから」

「悪かったって。……紗枝も食べて行けよ。せっかく来たんだし」

「いいの!?」


落ち込んだ表情が一転、甘えるようにあっくんに寄り添う。
邪魔なのは私のほうだ。
今夜だけでも私を優先してくれたことにほんのちょっと浮かれた気持ちは、今にも消えてなくなりそうだった。