ひとりキッチンに残されても、まだ鼓動は早いまま。
宥めようとしても、言うことを聞いてくれない。
あっくんが何を言おうとしていたのか気になるくせに、聞くのが怖い。
いろんなことを考えながら、そこから動けずに座り込んでいた。
パタパタとスリッパの音が少しずつ近づく。
……足音、ふたり分?
不思議に思いながら、キッチンの入口に目を投げ掛けた。
と同時に……。
――嘘。
そこに立っていた人物に、心が凍り付く。
「こんばんは」
紗枝さんだった。
想像もしなかった人物の登場に、息を吸い込んだまま止める。
「兄と妹、水入らずのところ、お邪魔だった?」
きっと、『どうして紗枝さんが?』というのが、私の顔に出ていたんだと思う。
紗枝さんは、少しだけ棘のある言い方をした。