分が悪くなった琴美は、さっさと話を切り上げて仕事に取り掛かってしまった。
そんな琴美を横目に、ボールペンを出そうと机の引き出しを開ける。
するとそこに、手書きのメモを見つけた。
『稲森、おはよう。
夕べはごちそうさま。
出張だってこと、言いそびれた。
上司がいないからといって、サボってたら承知しないぞ』
部長からの書き置きだった。
……サボったりしないってば。
ダメージを受けていた気持ちが、簡単に解きほぐされていく。
わざわざメモを残してくれたことがくすぐったくて、自然と頬が緩んだ。
「ひとりでニヤニヤして、なにごと?」
今度は、琴美が気持ち悪いと言わんばかりに横目で見る。
「べ、別に」
笑みをかみ殺して真顔を作る。
そうしていても、目元からすぐに崩れてしまいそうになった。
部長のメモ攻撃の威力は半端ない。
というよりも、そんなことで簡単に気持ちが上向きになることが、なんだか意外だった。
「変なの。でも、久々に二葉のそんな顔見たよ」
「……そう?」
ちょっと嬉しそうに私を見る琴美の視線から逃れるために、「お茶淹れて来る」と席を立ったのだった。