「……はい?」

「そんな言葉、聞いたことない?」

「……あるかもしれません」


男性は、その女性の最初の男になりたくて、女性は、最後の女になりたがる。
確か、そんなようなことだったような。


「今、その気持ちがすごく良く分かったよ。稲森の“初めて”をふたつももらえたから」


首を傾げた私に優しく微笑んだ。
会社で仕事に打ち込む顔とのギャップが、私の鼓動を高鳴らせる。

それをどう制御したらいいのか、自分の心臓なのにその術が見つからない。
戸惑いに視線を逸らした。


「稲森って、最初はクールな印象が強かったけど、そんなこともないみたいだな」


部長がさらに顔を綻ばせる。

……そんなこともない?
それがどういう意味なのか、ピンとこない。


「……私、クールに見えましたか?」

「仕事も淡々とこなすし、俺の歓迎会のときも、みんなと騒ぐ方でもなかっただろ。どこか冷めた目で見てるように感じたからね」