「お鍋を探してたら、そこから飛び出してきて」
「……悪い。適当に放り込んでおいたからだ」
ちょっと照れ臭そうに笑った。
片付けることは、基本的に苦手らしい。
「お。エプロン姿もなかなか決まってるな」
「――あ、急だったので、帰りに買って来たんです」
しげしげと見つめられて恥ずかしくなる。
あ、そうだ。
「部長、これ……」
エプロンのポケットから、会社で預かったこの部屋の鍵を取り出した。
「それは、稲森用だ」
「はい?」
部長へ向けて差し出したカギは、右手で軽い阻止に合う。
「あの夜以来、全然ここに来ないから、これでも結構寂しかったんだけど?」
そんなことを言われるとは思ってもいなくて、何て返したらいいのか分からなかった。