「――り、おい、稲森」
かすかに聞こえた部長の声と、肩を揺り動かされる感触。
部長、やっと話すことを見つけたのかな。
待ちくたびれたよ。
さっきまで重かったはずの瞼が、なぜか軽くなっていることに気づいた。
そっと開いてみると、妙に静かな店内。
少し離れたところで、後片付けをしている店員の姿が目に入った。
あれ……?
「閉店だ」
「えっ!?」
思わず出た大きな声に、部長が「声デカすぎ」と耳を押さえる。
腕時計を確認。
……あと一時間で日付が変わる。
嘘……。
ということは、私、二時間近くも眠ってたの?
突然、私の隣で部長がクスクスと笑い出す。
「……何ですか?」
「ここ、真っ赤だぞ」