そこまで落ち込むようなことでもないと思うんだけど……。
その横顔をこっそり見つめ続けていると、不意に視線が合ってしまった。


「美味しい?」


急に聞かれて、何のことかとポカンとしてしまう。
部長の視線が目の前のグラスに向かったのを見て、カクテルのことかと思い当たった。
とりあえず、グリーンフィズを口に運ぶ。


「はい、美味しいです」


少し話そうと引き留めたのは部長なのに、それきりだんまりを決め込んだままグラスに向かい合ってばかり。

同じ会社とはいえ、ほぼ初対面。
会話が弾まないのは仕方ないけれど、こんなことなら無理にでも帰れば良かった。

でも、一度逃したタイミングは、なかなか取り戻せない。
私は、帰るきっかけを掴めないでいた。

体内に蓄積されていくアルコールと、夕べの浅い眠りが祟ったのか、急に睡魔が襲ってくる。
今すぐここで眠れと命じられたら、きっと誰よりも早く眠りにつけるに違いない。

……どうしよう、眠い。
そうだ、部長が話し出すまで、ちょっとのあいだ目を瞑っていよう。

眠るんじゃない。
ほんの少し、目を閉じるだけだから……。