「結婚も決まったらしいですから。ね? 相原部長?」


同意を求めて相原部長を見たけれど、部長は悲しく笑うばかり。
そんな顔を見て、私がどれほど部長を傷つけているのかを改めて悟った。


「そうか。それは失礼な目で見てしまっていたんだね。いやぁ、悪かったね」

「いいんです」


相原部長も私も、首を横に振って菊池部長に答えた。

私たちが恋人同士だったということが、まるで夢の中で起きた出来事のように思える。
現実には起きていない、ただの妄想。
ここにいる人たちの誰ひとりとして、私たちのそんな過去は知らないのだから。
人の記憶に記されないことは、存在すら消されてしまうものなのかもしれない。
私たちの過去は、抹消されてしまった。
自分で選んだ未来なのに、未だに吹っ切れていないのがもどかしかった。

繋がりと呼べるものがあるとするならば、唯一のもの、それは、この子だけ。
この頃ふっくらしてきたお腹に手を当てて、その温もりを感じた。