「それじゃ、冷めるといけないから食べようか」
テーブルに着いたときにすでに用意されていた和風定食に、菊池部長は箸をつけた。
ふたりの部長が仕事の話で盛り上がる中、私はひとり、定食をつまんでは箸を休めてお茶を飲んでいた。
ただでさえ食欲不振。
目の前に相原部長がいれば、さらに食べられなくなるのは当然のこと。
吐き気に襲われないことだけに意識を集中させた。
「稲森くん、どこか調子でも悪いのかね?」
「あっ、いえ、悪くないです」
顔の前で手を振って、慌てて否定する。
なかなか進まない箸に気づかれてしまったらしい。
「本当に大丈夫なのか?」
「は、はい、大丈夫です」
相原部長にまで聞かれて、どぎまぎしてしまう。
「前にも倒れたことがあっただろう? 一度ちゃんと病院へ行ったほうがいいんじゃないか?」
「……はい」
私たちのやり取りを、菊池部長はなぜか微笑ましいものでも見るようにしていた。