「いやぁ、お待たせお待たせ」


菊池部長は愛想よく手を振ると、立ち上がって出迎えた相原部長を座るよう勧めた。
回れ右をしてしまおうかと思ったけれど、菊池部長に椅子を引かれて、腰を下ろす以外に手段はなかった。
相原部長の斜め前に座る私。
顔を上げられなくて、俯いたまま膝の上に置いた手をただ見つめた。


「ふたりとも、どうかしたのかね?」


不意に聞かれて、ビクンと過剰に反応してしまう。
相原部長と交差した視線は、お互い不自然に逸らした。


「ケンカでもしたのかい?」

「やだ、菊池部長、ケンカだなんて。私たちは別にそんな……」


単なる、元上司と元部下ですから。
笑い飛ばそうとしたのに、言葉が続かなかった。
……何やってるんだろう、私。


「そうですよ。元部下に久しぶりに会ったから、なんだか照れ臭いだけです」


代わりに、相原部長が答えてくれた。
今度は、部長の口から出た「元部下」という言葉が、グサリと突き刺さる。
そんな自分に、ほとほと嫌気が差した。