「今夜は都合が悪いんだ。申し訳ない」
受話器に向かって部長が告げる。
私がいる手前、部屋に上げるわけにはいかない。
部長の邪魔をしてしまったようで、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「本当に申し訳ない、また明日にでも。……分かった」
やっと納得してくれたのか、ふぅと大きく息を吐きながら、部長は受話器を置いた。
「……すみません、私、帰るべきだったのに」
身支度を整えて立ち上がると、「何も……聞かないのか?」と、部長が真っ直ぐ私を見た。
「はい……?」
「彼女、……社長のお嬢さんとのこと」
「……私には聞く権利ありませんから」
気になって仕方がないくせに。
本当は、ふたりがどうなっているのか知りたいくせに。
でも、言葉の通り、私にその権利はない。
自分からそれを返上してしまったのだから。
「……そう」
私から視線を外すと、部長は悲し気に笑うのだった。