会ったらいけないのに、何でここへ来てしまったんだろう。

一歩ずつ近づく部長。
少しずつ縮まるふたりの距離。
離れなくちゃ。
そう思うのに、足が一歩も動かなかった。


「どうかしたのか?」


変わらない優しい声に、涙が溢れそうになる。


「……いえ、何でもありません」


何でもなかったら、こんなところに私がいるはずなんてないのに。
でも、他には何も言えなくて黙り込む。


「顔色悪いけど……?」


心配そうに顔を覗き込まれて、思わず後退りをした。
俯くばかりの私に「ごめん」と、なぜか部長は謝った。

どうして部長が謝るの?
悪いのは私なのに。
無意識とはいえ、ここへ来た私が悪いのに。


「大丈夫ならいいんだ。……それじゃ、」

「――あ、あのっ」


背を向けて立ち去ろうとした部長を、つい呼び止めてしまった。