別に用事はないけれど、LINEや電話帳を閉じたり開いたり。
手持無沙汰でいじっていることにも飽きてくる。
……やっぱり帰ろう。
腰を浮かせかけたときだった。
「稲森、さん……だったよね?」
声を掛けてきたのは、新任の相原部長だった。
「はい、そうです」
仕方なしに、もう一度座り直す。
次の言葉を待ってみるけれど、なぜか私の顔をじっと見つめ続ける部長。
……何だろう。
「……あの、何か? あ、飲み物の追加ですか? それなら私が――」
「あ、いや、違うんだ。これなんだけど……」
そう言って、部長はポケットをごそごそと探り出した。
そして、そこから取り出したものを見て、思わず目を見張る。
「これ、キミのじゃない?」