◇◇◇
私に赤ちゃんが……。
お腹にそっと手を当ててみる。
医務室から産婦人科へ直行してみると、先生の診断に間違いはなかった。
妊娠九週目。
誰が父親か。
それはあまりにも簡単な質問だった。
少しだけ春の気配を感じる風が吹く中、すっかり陽の落ちた街。
知らず知らずに足が向いていたのは、何度も通った場所だった。
……何で来ちゃったんだろう。
部長のマンションが見える信号で足を止めた。
何しに来たの?
こんなところまで来て、何をするつもり?
自問してみたって、答えなんて見つからなくて、出て来たのは小さな溜息がひとつだけ。
自分がイヤになる。
……帰ろう。
来た道を戻ろうと振り返ったときだった。
「二葉……?」
「……部長」
少し離れたところで立ち止まる部長の姿が見えた。
街灯に照らされたその顔が悲しそうに揺らぐのを見て、後悔に見舞われる。