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いくらフロアが違ったとしても、本社にいれば、どうしたって部長の姿は見かけてしまう。
エレベーターを待つその背中を遠くから見つめた。
少し痩せたかな。
仕事が忙しいのかも。
ちゃんと食べてるかな。
つい余計な心配をしてしまう。
友里恵さんとの結婚話は、どこまで進んでいるんだろう。
社内の噂には全然あがってこないけれど、きっと水面下では着々と進んでいるに違いない。
そうでなきゃ、部長は元の役職には戻れなかっただろうし、私だって本社には戻してもらえなかっただろうから。
「稲森さん、どうしたんですか? ボーっとしちゃって」
部長がエレベーターに乗り込むと同時に、同僚が横から声をかけてきた。
「……ううん、何でもないよ」
「あれ? 顔色悪いですね」
「そう……?」
言われて、頬に手を当てる。
「風邪が流行ってるみたいだから、気を付けてくださいね」