「最低!」
私の言葉を遮って、琴美が声を荒げた。
本当に最低だ。
でも、自分なのに、自分じゃないような。
そんな言葉を吐き出す唇だけ、別人のような感じだった。
「もう二葉なんて知らない! そんな女だなんて思ってなかった!」
私を鋭くひと睨みすると、琴美は背を向けて立ち去った。
これでいいんだ。
あっくんを想いながら部長に抱かれて、想いが通じれば、あっさり部長を捨てる。
そんな悪女に私がなれば済むことだから。
パッシングレイン。
ひとしきり降ったかと思ったら、そんなことはなかったかのように晴れ渡る。
私たちはまさにその言葉で表現できる関係だったのかもしれない。
思えば、部長と私は雨で繋がっていたような気がする。
あっくんに紗枝さんを紹介されたレストランの前で初めて部長と出会った夜も、確か通り雨だった。
部長への想いに気づいたあの海でも、突然の雨に降られたっけ。
思い出が少な過ぎるせいで、そのひとつひとつが鮮明に蘇る。
嫌でもギュッと締め付けられる胸。
溢れそうになる涙を必死に堪えた。