「えっ!?」
口をポカンと開けたまま、琴美は固まってしまった。
「だからね、部長とは別れたの」
何でもないことのように、サラリと言い放つ。
「ちょっと、何で? 権力に屈する必要なんてないじゃない。どうして二葉が折れなきゃいけないの!?」
「そういう理由じゃないの」
「……どういうこと?」
琴美は探りを入れるように私の目の奥を覗き込んだ。
不審に揺れる琴美の瞳。
「琴美にもずっと話せなかったんだけど、私……大好きな人がいるの。部長と付き合えば、その人のことを忘れられるかと思ったら、全然ダメで……」
部長から仕事を奪いたくなくて別れた、なんてことを言ってしまったら、正義感の強い琴美のこと、部長に伝えてしまうかもしれないから。
真実は、琴美にも話さないほうがいい。
別れを告げたときこそ、「納得できない」と言っていた部長だけれど、あっくんと並ぶ私を見て、何も言えなくなったようだった。