社長に会うという嘘を吐いたのは、そういうことだったの……?
この頃、様子がおかしかったのも、その話があったから?

思い当たる節があるだけに、どんどん不安が増殖していく。


『二葉? 聞いてる?』

「……もう、分かったから」

『分かったって何を?』


琴美に当たるつもりはないのに。
嫌な噂を聞かされて気が動転してしまった。


「切るね」

『えっ? あっ、ちょっと二葉――』


強引に電話を切り、バッグを肩に掛け直した。

とにかく、部長に会って確かめたい。
私が見たものは何だったのか。
どうして嘘を吐いたのか。

ずっと聞けずにいたことを、ちゃんと問いただしたい。

どんどん速くなる歩調は、いつの間にか駈け足になっていた。