『ちょっと! “琴美か”はないんじゃない?』


琴美はオーバーに声を荒げた。
そうだよね。失礼極まりない。


「……ごめん」


素直に謝ると、『そんなことより』と琴美が続ける。

一体なにごとだろう。


『こっちで変な噂が流れてるんだけど』

「変な噂?」


さすがは辺鄙な場所だけある。
私のいる倉庫には、会社絡みの噂は全然聞こえてこない。
それは、距離的なことだけではなく、村八分のような感じだ。


『相原部長のことだよ』

「……部長の噂?」


まさか、私との仲が社内に知れ渡ったとか?

ちょっとした不安に駆られる。

社内恋愛は禁止されていないにしろ、付き合いづらくなってしまうから、できれば公にはしたくない。
ところが、琴美の口から出て来たのは、全く違うことだった。