「この話を稲森さんが受けてくれないと、代わりにその吹きだまりへ異動するのは相原部長になるんですよね」
信じられない言葉だった。
どうして私の代わりに部長が?
「どうしてですか?」
「どうしてと言われても、ね……」
饒舌だったくせに、打って変わって急に口を濁す。
「私の異動に何の関係があるんですか?」
私が認めなければ、代わりに部長だなんて、あまりにも横暴すぎる。
これじゃ、まるで脅しだ。
「ともかく、そういうことなんです。稲森さんは、相原部長が左遷されても平気ですか?」
「――平気だなんて!」
おかしすぎる。
降って湧いた怒りを抑えきれず、膝の上で拳を握り締めた。
部長が左遷されて、平気でいられるわけがない。
しかも、それが私の身代わりだなんて言うのだから。
あれからいくら思い返してみても、何ひとつ思い浮かばない重大なミス。
それなのに、こんなことって……。
「決断は早いほうがいいですよ」
面倒なことから早く解放されたい。
そんな態度が見え見えだった。
人事部長は、「それじゃ、そういうことで」と腰を上げて、さっさと出て行ってしまったのだった。