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人事部長から内線で呼び出されたのは、その日の午後のことだった。
私に用事があるとすれば、異動の話以外にない。
全身の血が一気に心臓に集まるような感覚を覚える。
打ち合わせで席を外している部長に助けを求めるわけにもいかなくて、重い足取りで人事部長の元へと向かった。
ミーティングルームに向かい合って座ると、さらに鼓動は速まっていく。
「何の話か、わかりますよね?」
穏やかな口調なのに、笑っていない目元。
恐ろしくて、視線を逸らした。
「午前中も相原部長には伝えたんですけどね、彼、なかなか納得してくれなくて」
「……私、何かしたんでしょうか?」
異動させられる理由がまったくわからない。
「どうしてですか?」
「異動先が……」
「左遷の吹だまりだから、ですか?」
素直にコクンと頷くと、人事部長は大きく息を吐いてテーブルに身を乗り出した。