「ですから、相原仁と別れて」


今度は、強い口調できっぱりと言い切った。


「あの……どういうことですか?」

「どういうことって、そのままの意味のほかに、どういう意味があるんですか?」


逆に聞き返されてしまった。
……だって、部長と私が付き合っていることを知っている人なんて、琴美以外に誰も思い浮かばない。

どうしてこの人は、私たちのことを知ってるの?
そもそも、誰なの?


「別れてくれないと、相原仁に迷惑が掛かるってことだけ忘れないでください」


何も答えられずにいる私にそう言い捨て、背を向ける。

焦るわけでもなく、普通の足取りで遠ざかっていくその背中を呆然と見送った。