「稲森、ちょっといいか?」


そして、私に向かってミーティングルームを指差した。

後を追って中に入ると、部長はガラス張りの窓全てにロールスクリーンを下ろして、溜息交じりにソファへ腰をかけた。


「……私、何か重大なミスをしたんでしょうか?」


思い当たる節はないけれど、自分の知らないところで何かとてつもないことをしでかしたのかもしれない。
向かいに腰を下ろし、部長の言葉を待った。


「……いや、何も」


目を伏せて、 部長が首を横に振る。


「それじゃ、どうしてですか!?」

「今も人事部長に抗議をしてきたから。二葉は何も心配しなくていい」

「でもっ――」

「大丈夫だ。理不尽な異動を勧告されるようなことなど、何もしていないんだから」


そうは言うけれど、一旦告示されたことを取り消しなんて出来るの?
いくら相原部長がやり手だからって、人事部長の出した結論を曲げることなんて可能なの?
出てくるのは、不安ばかり。

立ち上がって、私の隣に座った部長。


「俺が何とかするから」


私の手を強く握った。