「どこで?」

「あの海です」


部長が迎えに来てくれた、あの日。
喫茶店Sea sideで飲んだのは、ちょっと違う香りを放つホットミルクだった。


「どっちが旨い?」

「うーん……あっち、かな」


からかったつもりだったのに、部長ときたら「それじゃ、もう一生作ってやらない」なんて私からカップを奪い取り、一気に飲み干してしまった。
熱さに顔を赤くしてまで。


「……部長、ヒドイ」

「ヒドイのは二葉のほうだ」


私を睨むけれど、上唇に牛乳の白い痕を付けているから全然様にならない。
クスクス笑い出すと、部長もつられて笑った。


「冗談です。部長のホットミルクのほうが美味しいです」

「当然だろう」


ようやく納得したらしく、自分のカップを私に差し出した。

部長といると、こんな些細な日常がすごく幸せで、私を満ち足りた気分にさせてくれる。
あっくん以上に想える人には出会えない。
そう思い込んでいたことが、ものすごく遠い日のことに感じるのだった。