「そんなことはないよ。別にどうってことはないんだけどね」
私を不安がらせないためか、部長が私の手を握って、トントンと頭を撫でる。
本当に大したことじゃなければいいんだけど。
「無理はしないでくださいね?」
「分かってる。二葉は何も心配しなくて大丈夫だから」
私を軽く引き寄せたあと、額にチュッと触れた唇。
部長は、「いつもの作ろうか」と立ち上がった。
この部屋にいるときのふたりの定番。
ホットミルクだ。
冷蔵庫には相変わらず牛乳のストックがたくさんあって、賞味期限が切れやしないかと、実のところは心配だ。
事実、私が部長と付き合い始めた頃は、何本も無駄にしてしまったのだから。
「お待たせ」
湯気の立ち上るカップをふたつ持って、部長が隣へ座る。
いつもながら、いい香りだった。
その匂いに、思い出されたことがあった。
「ここじゃないところでも、美味しいホットミルクを飲んだんです」