「あの夜まで、ずっと悩み続けていたんだけどね」
まさか、紗枝さんとの結婚を決めたのは……そんな気持ちを吹っ切るために?
「紗枝と結婚すれば、さすがにこの気持ちもなくなるだろうって思ったんだ」
私の言いたいことが伝わってしまったのかもしれない。
あっくんは、悲し気にまつ毛を伏せた。
「そんなことに紗枝を利用するなんて、ヒドイ男だよな。だから紗枝も……」
「……あっくん、気づいてたの?」
紗枝さんが、他の男の人と会っていることに。
探るように見つめると、あっくんは首を縦に振った。
「あの夜、公園で二葉が紗枝と別れろって言ったのも、どこかでそんな紗枝を見かけたからじゃないのか?」
全てお見通しということだった。
まさか、あっくんが知っているとは思いもしていなかった。
「……紗枝さんとは、今後どうするの?」
「わからない」
溜息を吐きつつ、首を大きく横に振る。
「けど、少し距離を置こうと思う」
「そっか……」
何て言ったらいいのか分からなくて、相槌を打つことしかできなかった。
ぐちゃぐちゃに絡み合ったそれぞれの想いが、いつかすんなり解けるときがくることを祈るしか、私にはできない。
「それじゃ、帰るとするか」
元気を装ってトーンアップしたあっくんの声に、黙って頷いた。