私を抱き締めるときだって余裕の振る舞いで、我慢なんて素振りは一度も感じたことはなかった。
「最初は誰でもよかったんだ。誰かが寄り添っていてさえくれれば。いつからか、それが二葉じゃないとダメだと気づいた。二葉の想い人がお兄さんだと知って、無性に苛立ったよ」
「部長……」
これほど幸せなことはなかった。
心から想う相手から、同じように想ってもらえる。
そんな未来が私に訪れるなんて、少し前には考えもしないことだった。
気持ちを伝え合ってしまえば、もう堂々と触れられる。
伸ばした指先で、部長の頬をそっとなぞる。
「……部長の頬、冷たい」
「それじゃ、二葉が温めてくれ」
どちらからともなく、引き寄せられるように重なった唇。
冷たく感じたのは、ほんの数秒だった。
口づけが熱いから、部長の眼差しが甘いから、抱きかかえられてベッドへ横になったときには、身体中の神経が剥き出しになってしまったように痺れた。