「いや、そうでもないみたいだ。遠くにいるって言ったら、それじゃまた次の機会にって」
「仕事関係ですか?」
「社長」
部長の顔が一瞬真顔になる。
「……社長?」
「うん、何だろうな、一体」
琴美が言っていたことを思い出した。
社長のたっての希望で、相原部長は本社に異動して来たと。
直々に社長からの連絡なんて、よっぽど信頼されているに違いない。
自分のことじゃないのに、なんだか誇らしかった。
「このままじゃ風邪ひくから、ちょっと休んでいこうか」
「……休んで?」
「洋服、乾かしたほうがいいだろう」
「そうですね……」
すっかり冷え切った身体。
このまま家までこの状態だと、ふたり揃って風邪ひきは免れないだろう。
走り出した車は、海からほど近いリゾートホテルに停められた。
「先にシャワー使いなよ。洋服は乾かしてもらうように手配しておくから」
案内された部屋に入ると、部長が私の背中を押してバスルームの扉を開けた。
「えっ、でも、部長だってずぶ濡れなのに」
かといって、ふたり一緒にというのはさすがに無理だけど。
「俺は、二葉の後で大丈夫だから」
ほら、ともう一度背中を押されて閉じられたドア。
コックを捻り、頭から熱いシャワーを浴びると、震えていた肩先もじんわり温まっていく気がした。