「何だ? 俺、何か変なことしたか?」


思い返して思わず笑うと、部長が不思議そうな顔を向けた。
いえ、何でもないですと誤魔化し、部長に倣って階段を作っていく。

すごく幸せで、すごく楽しい。
こんなに穏やかな気持ちで誰かと過ごせたのは、初めてかもしれない。

無邪気な部長の顔を見るたびに、胸は高鳴る。
その瞳に見つめられると、呼吸さえ忘れてしまいそうになる。
でも、温かい気持ちに包まれるのは、他の誰とでもなかった。
こんな気持ちは、知らなかった。

いつの間にか薄い雲が張り出し、太陽が頭上からだいぶ傾き掛けた頃、私たちの砂の城はやっと完成の時を迎えた。


「つい夢中になっちゃったな」

「ほんとですね」


時間も忘れて、砂遊び。
そんなことも、きっと部長とだから出来ること。
私が手を加えたところはちょっと無様だけれど、なかなか上出来で、砂だらけになった手を払って、部長も満足気に笑った。

ふと聞こえたスマホの着信音に、部長が「ちょっとごめん」と言って、私に背を向ける。


「……今、ちょっと遠出していて……はい、すみませんが……」