冷めないうちにどうぞと促され、早速口を付ける。

部長が作ってくれたものと同じように、かすかに甘く香った。
それが身体の中に染み渡って、生き返る心地がした。


「……あったかい」

「すっかり身体が冷え切っていたんでしょうね。僕は準備があるから奥へ引っ込みますけど、遠慮なくゆっくりしていてくださいね」

「ありがとうございます」


笑顔を置き土産に、マスターはまた奥へと消えて行った。

ホットミルクを飲み干して身体が温まると、無性に恋しくなったのは部長だった。
バッグから“二葉”のキーホルダーの付いたカギを取り出して、ユラユラと揺れるそれを眺める。

部長の顔が浮かぶと、胸の奥がキリリと痛んだ。

キス止まりとは言え、裏切ったことは消せない事実。
会いたいと思うことも罪だと思えた。

どれだけ過ちを繰り返せば、本当の幸せに辿り着けるんだろう。

スマホを開くと、不在着信が何件か入っていた。
一件はお母さんから、一件は琴美から。
そして、数時間おきに入っていたのは、部長からの着信だった。