そこでふと、部長の作ってくれたホットミルクを思い出した。
それが無性に飲みたくなって、無理を承知で聞いてみる。
「あの……ホットミルクなんてありますか?」
「あれ? この店は初めてですよね?」
マスターが目を瞬かせる。
こっち方面に来たのも初めてだ。
躊躇いながら頷いた。
「うちの裏メニューをよくご存じで」
「裏メニュー……?」
ホットミルクがこの店の裏メニューなの?
「はい、メニュー表には載せてないんですけど、一度お客さんに出したら、ジワジワと人気が出たものなんですよ」
「そうなんですか」
「ホットミルクね、かしこまりました」
ニコニコしながら頭を下げると、マスターは奥へと入って行った。
そして、しばらくすると、甘い香りを載せて再びマスターが登場する。
「お待たせいたしました」
目の前に置かれたカップからは、湯気が上がっていた。