「……私、ですか?」


人差し指で自分の胸の辺りを指して聞くと、うん、と大きく頷く。


「――あっ、大きなお世話だったかな」


今度は「しまった」というような表情を浮かべた。


「いえ……。……それじゃ、ちょっと寄らせてもらおうかな」


冷えた身体を温めたいのと、何となくその人柄に惹かれて、遠慮なく甘えさせてもらうことにした。


中へ入ると、思ったよりも広い店内だった。
テーブル席はざっと十くらい。
カウンターも広く、その席はテーブルと同じくらいの数があった。
観葉植物がところどころに置かれ、入口付近の飾り棚には、海のそばだけあって貝殻のオブジェがあった。

窓際の一番奥の席。
そこは、さっきまでいた海が一望できる場所だった。


「さてと、何にいたしましょうか? と言っても、まだ準備中で、コーヒーくらいしか出せないんだけど……」


差し出したメニューは形ばかり。
マスターは困ったように頭を掻いた。