藤田って、変わりようが早いんだね
「これは?」
おふざけで、私が指を指したのは
ニット
暖かいような気がした。
「これいいな」
「へっ?」
まさか、納得するとは思わなかった。
「着てみよ!」
「はっ!?」
え、自分でいいとか言っといて、試着は嫌なの?
お前、どんなヤツだよ!
「お前、そんな格好してんのに、俺こんな暖かそうな服着んの?」
それで迷ってたの?
「うん、だって隣にいたら、私まで暖かそうになるかな〜って!」
「……」
あ、黙りましたね。
無視か!!
「私テキには…ベージュかな
だけど、藤田に似合うかな…」
ははっ!!
無視されたお返しだよー!
あえて、合わなそうな色を選んだのに
「……似合っててどうするんだよ、きみ」
似合ってました。
だけど、赤の方が似合うよ
たぶん。
「私、赤がいい」
「は?お前、ベージュかなって言ってたじゃん」
「藤田には、赤が似合ってんの!」
どうだかわからないけど!!
ベージュよりは…
「はいはい」
「ハイは1回!!」
説教してる気分…
あー、藤田を説教できたら、どれだけ気分がいいんだろうか。
「ほらね!」
試着室から出てきた藤田は、そっぽ向いて片手で口元を隠してる。
「買おっ!」
「下は?」
「えっ…」
下があったか。
下は、普通にジーンズとかでいいでしょ
「店員さんだ!!」
藤田のまねをしてみる。
私の言葉に反応したのか、店員さんが駆け寄ってくる。
少し、恥ずかしい気持ちになった。
「このニットに下は、何が似合うと思いますか?」
「えっと…ーー」
店員さんが話しているのに、私はその話に集中ができない。
あれ、藤田が消えた。
「おい」
呼ばれているのは、私か分からないけど、振り向いてみると
「俺、これがいい」
「……う、ん…」
いや、わざわざ私に言わなくても…
「あ、すいません。
決まったようなので、お会計お願いします」
「かしこまりました」
うぉおっ!
そこは、“かしこまっ☆” で笑いをとろうよ!
あ、でも…
GUの店員さんが
かしこまっ☆
なんてやったら、みんな引くよね…
「また払えなかった!」
「だから俺の」
そうだけど…
ていうか藤田、何円持ってんの?
この服で、かなりの金額いったけど…
私じゃ、この服買ったら、あっという間に財布の中なんて
空っぽだよ。
「もう帰ったかな」
「そーいや、お前の弟。
莉希の事好きみたいだな」
「えっ!?」
うそ、まじで!?
うー!お姉ちゃんに、先言ってよぉー!
「ごめん藤田。ちょっとだけ待ってて!!」
そう言って、すぐにスマホを取り出す。
えっと…
さっきは連絡ありがと!
藤田から聞いちゃったんだけど
琉斗、莉希ちゃんの事好きらしいよ!>
なんと、莉希ちゃんに比べると…
普通だな…!
あんな感じになってみたいけど…
今更いいや。
絶対、笑いものだよね。
それは避けたい。
夏稀side
「ごめんごめん!」
「いーけど…次どーすんの?」
つぎ?
「行きたいとこ、なかったんじゃないのか?」
あ、そうだったね。
ないけど。
そんな事言ったら、怒られそうだな。
「えっと…」
何を言おうか、迷っていると
藤田が急に笑い出す。
「…っ?!」
びっくりして、顔を見ると
笑顔の藤田がいた。
「本当は、あの2人いいムードだったから、2人っきりにしたかったんだろ?
俺と行きたいとこあるって嘘ついて」
「……うぅ…」
本当の事言われると、結構キツイな。
「お前ってほんと分かりやすいわ…」
そんな分かりやすいのかな…
よく言われるけど…
ただ、藤田がエスパーなだけじゃなくて?
違うの?まじでエスパーじゃないの?
何回も疑ってしまう。
「なんか、行きたいとことかねぇーの?」
「藤田の家行きたい…けど…」
いやぁ…
あれほどお金があると考えると
家がどうなのか聞きたいとこだ。
聞きたいっていうか、見たい?
「…え、本気だったの?」
「え?うん、本気」
だって気になるし?
もしや、お前…
お小遣いと…バイトのお金をいっぱい貯めて、今に至るって事か!?
結構…我慢できるヤツだったか。
一人で納得してると
「いいよ、莉希にバレないように行こうぜ」
「え!?私…玄関まででっ…」
家を見たいだけですので…
「何言ってんだよ、返したいものもあるし行こうぜ」
か、返したいもの…
私なんか、貸したっけ?
そんなこんなで来ちゃいました。
想像よりは…小さいけど…
三階建てだよ
でけーな!!
「オカネモチノヒトデスカ?」
「はっ?!」
うん、反応ダメダメだね!!
そこは!
「ハイ、ソウデスヨ」
って返してあげないと!!
泣いちゃうよ、夏稀ちゃん!
「あれ、夏稀さんとお兄ちゃん?」
私が、玄関の前で立ち止まってると
琉斗と莉希ちゃんが
運悪く帰ってきて
藤田に一発殴られる。
「いでっ」
「あぁ…もう!!」
急に大声を出すから、びっくりしたよ~
「お前もう帰れ!!
明日返すから!」
「えぇっ?!」
なんか、“しっしっ”ってされてんだけど…
ひどくない!?
「りゅ、琉斗…帰ろうか…」
なんだこいつ、すげぇ怖いぞ。
「ごめんムリ。莉希に勉強教えないといけない」
「はぁっ?!」
お前ら、部屋に2人っきりか!?
まぁ、でも…
この機会にふたりが付き合ったりする、可能性があるなら…
私は応援するけども…
「わ、わかった
あんまり遅くならないようにね、今日外食だから」
「へいへい」
そうだ!
今日は外食なんだ!!
デザート有の!!
うーん、しかしなぁ…
この服のお金を…どう返そうか…
明日…クラス表見て決めよう。
同じクラスだったら、渡しやすいけど
同じクラス……飽きたな。
「笠原」
後ろから、誰かが呼ぶ。
その声は聞き覚えのある声だった。
振り返ると、なぜか真っ赤な顔をした、藤田がいた。
「ん?」
「ん?じゃねぇよ。ん?じゃ…
何ひとりで帰ろうとしてんだよ」
え、だって日本語テキに、
『お前、もう帰れ!!』
いわゆる、さっさと帰れだからひとりだよね!?
琉斗は、勉強するみたいだし…
こいつ、日本語大丈夫か?
「っ…その…なんだ。
送ってあげてもいいけど…」
……はい?
なぜそんな、上から目線なんだ。ちみは!
いやっ、別に寂しくないんで…
この明るさだったら、ひとりで帰れますけども!!
「……藤田の好きに…」
「…いくぞ」
行くぞ?
どこへやら…
まぁ、私の家でしょーけど
「おい、カタコトうるさい」
「耳塞げ、耳を!!」
ヒールなんて履いてたら、そりゃあ
カタコト なんて当然なりますよ!
しかも、ヒールの丈が短いなら分かるけど
高いからね!!これ
私とっくに、コケてるよ!!
「塞いだら、お前の声聞こえねぇもん」
ドクンッ
どこか、胸の奥で何かがなった気がした。
気のせいだよね
「藤田が選んだよ、この靴」
「似合ってっけど…うるせぇな」
誰かこいつ、黙らせてくれ。
カタコト カタコト うるさいって、
お前が逆にうるせぇよ!!
ってなるね。
「そういえばさ、藤田ってモテるのに、なんで彼女作らないの?」
ずっと気になってたこと。
ほぼ、毎日のように告白されていた。
「……なんか作る気にならないって言うか…」
ん?なんか藤田の様子がおかしいぞ…
棒読みっていうか…
「好きな人いないの?」
「…っ…そ、そういうお前はどうなんだよ!」
「私?いないけど…」
いないけど…
いないけど…
なんかモヤモヤするな…
「ほ、ほら、お前の家に着いたぞ」
そんなこんなしていると、あっという間に着いちゃうんだね。
「送ってくれて、ありがとうございました」
ここは、ちゃんとお礼をね。
「へいへい…
…明日…っ…寝坊すんなよ!!」
急に怒鳴られて、びっくりする。
「ははっ、そのままそっくり返すよ
じゃーね!」
「おう、明日な」
なぜか、頬が熱かった。
友達、できるかな…
っていうか、友達いるね。