『おばあちゃん!!

海に行ってくるね!!!!』


おばあちゃんの家に来てから

数日が過ぎた頃

るうと散歩に出かけた。


小学低学年の時までは

沢山遊びに来ていたけど

父の仕事が忙しくなり

回数が減って

中学2年生の頃から一度も来ていない。

だからすごく懐かしい。





ワーワーワー


騒がしいと思ったら

いつの間にか

中学校の目の前まで来ていた。


校庭ではたくさんの男の子達が

サッカーをしていて

端のほうでは

数名の男女が

リレーの練習をしていた。

部活かな?


遠くからでもわかる

みんなすごく楽しそうだった。


私も…いつか。



ピーッ

笛が鳴り響く


さっきまで練習していた子達は

先生の元へ駆け寄った。



私はそっとその場から離れた。



海辺に到着して

すぐさま水に触れる

『つめた!!

春だもんね。当たり前か』

少し落ち込んでいると


「くぅーん」

るうが鳴いた。

少し疲れてる様子


『もう帰ろっか(ニコ』

「わん♪」

るうが来てから5年が経つ。

2番目の兄が拾ってきた犬だ。

最初はひどくやつれていて

家族に懐かなかった。

3ヶ月熱心にお世話をしたかいあって

傷は癒え元気に走り回れるようになった。



私たちが何もしないって理解出来たのか

少しず心を開いてくれた。


ピローン

ケータイが鳴って

1通のメールが届く。

「母)何してるの?早く帰ってきなさい????」


気づけばもう8時になっていて

あたりは真っ暗。

星が必死に輝きを放つ。

『い…ま…帰ります。っと』

心配している母に素早く返信をし

近道のため公園横切ることにした。


小さい頃ここでよく遊んだなぁ。

ブランコと
鉄棒と
砂場と
滑り台と
ベンチだけ

狭い訳では無いが

なんだか殺風景だ。



『懐かしいなぁ』

懐かしさのあまり

早く帰らなけらばいけないのに

少しだけ寄り道をした。


奥のベンチに人影があり

その目の前を通ろうとした時


フードをかぶった男の子がいた。

よく見ると手や足に怪我をしていた。


年下だろうか?

近づいて

バックに入っている絆創膏を取り出すと

『はい!あげる!』

私はその男の子に絆創膏を差し出す

びっくりしたのか

その男の子は顔を上げるが

「…いらねーよ」

すぐに下を向いてしまった。



さっき会ったばかりの人に

馴れ馴れしいかもしれないが

そんなの関係ない。


両手で男の子のほっぺをつかみ

顔を無理やり上げさせ

『人の行為を無駄にしない!

我慢しても痛いのは痛いでしょ?』


顔を上げたせいか

フードが落ち

月明かりが男の子の顔を照らす。

真っ暗な黒髪に

キリッとした目

女の子のように透き通った肌

見惚れてしまうほど

彼は美しかった。

そして寂しそうだった。



男の子は先ほどよりも驚いた顔をしたが

少し顔を赤らめ

すぐに顔を逸らした。


『…ぷ(笑』

不良君のくせに

照れるとか

可愛いところがあるじゃないか。


「あ?」

ドスの効いた

素晴らしく低い声が

耳に入る。

『あ。ごめんごめん。

思い出し笑い(ニコ)』


口が裂けても

この人に可愛いと思ったなんて言えない。

『ちゃんと傷治してね!!』

無理やり右手に

絆創膏を渡して

その場を去った。


浩兄達きっと心配してるだろうな

るうに水をあげて

公園の出口に向かおうとした時

「…おい」


ベンチにいたはずの不良くんが

なぜか公園の出口のとこで

壁に寄っかかっていた。


何か気に触ることでも

言っちゃったかな?

少し不安を抱きながら


『なんですか?』

返事をする。


「お前いくつ?」

意外すぎる質問で

驚いたが素直に答える。

『…今年17歳です』



「ここによくいんの?」

なんでそんなこと聞くのかな?

ここには引っ越してきたばっかりだけど

言うのめんどくさいし

「おい」

な、な、なんか怒ってらっしゃる

『…まぁ散歩コースなので(ニコ』

正確には今日から

散歩コースになる予定。だけどね

たぶんもう会うことないし

大丈夫だよね?

「………」

あれ?

バレたかな…

「見たことないな」

『…』

やばい。

この人は既に

ここに通ってるのかな?


『朝とか夜しか来ないから

時間帯が違うのかもね』


とっさに嘘をついた。

さぁなんて返す。

ばれるかな?!


「ん。そっか」

なんとかごまかせたみたい。

でもこのまま話を続けたら

ボロが出そうだし

お母さん達も心配してるから

早いところ帰ろうかな…


『もうそろそろ帰らないと…』

少し申し訳なさそうに言うと

「わりぃ。…またな」

男の子は案外すんなりと

解放してくれた。

『ばいばい(ニコ)』

それだけを告げて

るうを連れて走って公園を出た。

公園から少し離れたところで

止まり 息を整える

「またな」

嘘をついたことに罪悪感を覚える。

ごめんなさい

帰りどこの道を通ったか覚えていない。

浩兄にすごく怒られ

少し泣きそうになったことは秘密。


それから


2週間が過ぎ

もうすぐ新しい高校へ入学。

あれからあの公園へは行っていない。


私はもう

あの出来事とをすっかり忘れていた。