「……最期に、言葉をかけてあげてください」
その言葉に、よろよろと立ちあがった父が、病室の奥にあるベッドにむかって歩いていく。
わたしもよろよろとした足取りで、彼に続く。
うそ。嘘でしょ。本当に死んじゃうの?お母さん。
「おかあ、さ……」
父が無言でわたしを抱き上げ、母の顔が見れるようにしてくれる。
涙をぼろぼろとこぼしたわたしの気配を感じたのか、母はかすかに目を開いた。
「美咲……そこに、いるの……?」
「おかあさ……お母さん!いるよ!ちゃんと……ここに!」
ぎゅうっ、と母の白い手を握る。
だんだんと力が薄れていくその手に、わたしの体温をしっかりと刻み付けるように。